「こいつはクールだ」
「だから時を遡ったのだ。我ら概念が万物の中で唯一、因果律に逆らうことが出来るものであるぞ。果が因を生む、つまり【未来が過去を変える】のだ」
「えーと、なんで今頃?」
「この本、長らく放置してしまったのだが、残り僅かだったので、読んでしまおうと思って読んでしまった」
「感想は?」
「少し読むのが辛かったのだがね。結末はたいへんクールであった。そこは満足した」
もうちょっと §
「未来が過去を変えるってどういうこと?」
「うん。だからね。現代社会でよく起こっている出来事だよ。天下の大悪党ペテン師のスティーブ・ジョブズも今や子供がお手本にすべき聖人となった。未来は過去を変えられるのだよ。概念の世界においては」
「それは困ったことだね。真実はどこにあるんだ?」
「それが歴史を研究するってことだ。そこでは言葉は絶対的な力を失う……はずだ」
「はず?」
「言霊の力で、フィクションを【これが正しい歴史だ】と言い切って押し通すのも、主に国家史レベルでは常識的なやり方だからね」
「それは某国のこと?」
「日本もだよ」